取り組みの背景

日本における情報技術者の現状

日本の情報産業においては、大学等で専門教育を受けずに入社する技術者が大多数を占め、彼らに対して、企業内教育において知識やスキルを教えてはいますが、 それが現実の問題にどのように適用されるかについての教育は実務の場に任されている場合が多数です。大学においても、この点は従来あまり意識されてきませんでした。 このため、コンピューターサイエンスを実務に適用する基礎能力が、産学双方で不足しており、日本ではIT投資の割に効果があがらないことが指摘されています (参考資料1 日本のIT投資の非効率性)。

図1は情報技術者の能力別構成を日米で対比させたものです。米国に比べて上流工程を担当する技術者(先端人材、高度人材)の層が1/5程度しかいません。 日本において相対的に多く見られる下級技術者層は、今後インド・中国・韓国・ベトナムなどの周辺諸国の技術者にその地位を明け渡すことが予想されることから、 上位層の拡充が日本の情報産業の緊急課題となっています。

本プログラムは、産学連携のコラボレイティブなプロジェクト実践によって、この上位層の拡充を図る教育方法の提案なのです。

図1: 人材資源の日米対比 2001 JITEC Report of Skill Standard (p.15) 図1: 人材資源の日米対比 2001 JITEC Report of Skill Standard (p.15)

SFCにおける情報教育の実績

SFCでは、1990年の開設以来、学生を「未来からの留学生」と捉え、未来志向の教育を行ってきました。中でも重視したのが「問題発見・問題解決」を目指す教育です。 このため、授業の核に「研究プロジェクト」(いわゆるゼミ)を設けて、プロジェクトベースのトレーニングを行ってきました。 すなわち、問題が明確に定義されないテーマについて、学生自身が問題設定から行い、何らかの解決を見出す活動を積極的に行っています。 この授業は学生に対し、主体的に取り組まざるを得ない教育環境を提供してきました。情報技術の教育に関しても、十分な授業科目が用意されています (参考資料2 SFCにおける既存の科目とコラボレイティブ・マネジメント教育の関係)。

産学連携との関連では、企業等でインターンシップを行うための「フィールド研究」があり、実社会を体験するという点では、重要な成果をあげてきました。

産学連携の教育プログラム開発については、村井純環境情報学部教授の研究室を中心にSchool Of Internet(SOI) プロジェクトを起こして、 国内のみならず、東南アジア全域に、SFCのネットワーク関係の授業を配信しています。ここでは日本の企業の技術者の受講も多く、良質の教育が求められていることが分かります。

環境情報学部の大岩研究室でも(株)EXA社の新入社員のためにオブジェクト指向入門の教育システムを開発してきました。 これは、授業科目の「オブジェクトプログラミング」を新入社員教育用に改訂したものであり、最新のインストラクショナル・デザインの技法が応用されています。 この他、大学院生を中心に三菱スペースソフトウェア社の新入社員教育を担当する他、ネクストウェア社の若手社員のための情報技術基礎教育を行うなど、 情報産業の若手技術者のための教育方法を研究し、実践してきました(参考資料5 大岩研主催の企業向けプロジェクトベースの技術者教育)。

大岩研究室の行う授業科目「研究プロジェクト」で実施された「コミュニティーサイトの設計と実装」においては、 SFCと上智大学で行われている英語多読教育を支援するシステムを構築し、実際の授業で使用してきました (参考資料4 大岩研究会でのソフトウェア開発ソフトウェア開発プロジェクト)。 このように、実際にユーザーが使用するシステムを構築する経験は、学生の受講動機づけに大きな影響を与えました。

また、携帯電話とGPSを融合した「あしあと」というシステムは、マイクロソフト社の Imagine Cup 2005 に応募して第3位に入賞しました。このシステムの完成度の高さは審査員に高く評価されました (参考資料4 大岩研究会でのソフトウェア開発ソフトウェア開発プロジェクト)。

この他、社会科学との共同研究も行なわれています(参考資料3 Boxed Economyプロジェクトにおける井庭研と大岩研のコラボレイション)。